スタッフ

部長/教授 中田 典生 (Norio Nakata, MD, PhD) 

略歴
1988年東京慈恵会医科大学医学部卒業、
1993年日本医学放射線学会放射線科専門医(診断)取得、
2001医学博士取得、同年から東京慈恵会医科大学高次元医用画像工学研究所にて鈴木直樹教授に師事、
2004年に同大放射線医学講座講師を経て、
2011年から東京慈恵会医科大学医学部准教授。
2014年から2023年まで 慈恵医大本院 超音波診断センター長
2017年厚生労働省 保健医療分野におけるAI活用推進懇談会 構成員、
2020年4月から 総合医科学研究センター人工知能医学研究部 部長
2023年4月から 総合医科学研究センター人工知能医学研究部 教授

専門
放射線科(画像診断)、超音波医学(診断、専門医・指導医)、人工知能医学

所属学会 
日本医学放射線学会
日本超音波医学会
日本メディカルAI学会 顧問
日本医用画像工学会 常任幹事
RSNA RadioGraphics誌(Informatics担当)Reviewer
RSNA Radiology: Artificial Intelligence誌(~2019) 編集委員(Associate Editor)
RSNA2017~2019  RSNA Scientific Session(口頭発表) Program Committee委員

助教 王 作軍 (Zuojun Wang, MD, PhD)

研究内容

1.大規模言語モデル(LLM)の医療分野における有効性の検討

2024年度を通じて、大規模言語モデル(LLM)の医療分野における有効性と限界を、日本語環境・医療画像・運用面の三つの軸から体系的に検証した。生成AIの急速な普及を背景に、私たちが重視したのは、第一に日本語の医療知識に対する網羅性と正確性、第二に医療画像読影を含む多モーダル推論の実力、第三に医療安全と個人情報保護を両立させた実装要件である。具体的には、日本の医師国家試験(第117回)の設問と、日本超音波医学会の超音波検査士認定試験問題集を用いて、ChatGPT 系列と医療特化型のオープンLLMの性能を比較した。

医師国家試験に関する検証では、A〜Eの設問群から代表例を抽出し、ChatGPT 3.5、ChatGPT-4-0125、マルチモーダル機能を備えたChatGPT-4oに加え、Clinical Camel 70BやMed42-70Bといったオープンかつ医療特化のモデルもあわせて評価した。画像問題を含む複数の設問では、旧来のテキスト専用モデルが誤読に陥る一方、ChatGPT-4oでは画像所見の理解が改善し、例えば外傷後の縦隔気腫が疑われる症例の対応に関する設問では、臨床状況と画像所見を統合した妥当な意思決定に到達できる場面が観察された。ただし、医療手技の手順や実地的操作を問う問題では依然として不安定さが残り、モデルの出力をそのまま臨床現場に適用することは慎重であるべき、という結論に至っている。総じて、ChatGPT-4oは日本語医師国家試験相当の設問において合格水準に達する高い性能を示したが、医療安全上の観点からは、人間の専門家による監督と検証を前提とした利用設計が不可欠である。

超音波検査士認定試験問題集を用いた検証では、画像を提示しない試験(Trial 1)と画像を伴う試験(Trial 2)の二系統を設けた。前者では基礎領域、体表、循環器、消化器・泌尿器、健診を含む127問をランダムに抽出し、後者では体表、循環器、消化器・泌尿器、健診から合計100問を対象とした。モデルにはChatGPT 3.5とgpt-4-0125-previewに加え、院内のローカル環境に量子化導入したMed42-70B-AWQを用いた。Trial 1ではChatGPT-4が最も安定した成績を示し、超音波物理の基礎分野では臨床教育に使用可能と判断し得る水準の正答率が得られた。Trial 2では、カラードプラによる血流の有無や矢印で示された所見の位置関係といった一次的な画像認識は概ね可能であった一方、最終診断の選択に際しては領域横断的な知識統合が要求される設問で誤りが残存し、画像理解から診断仮説の優先順位付けに至る推論過程の最適化が今後の課題であることが明らかになった。代表的な解答傾向として、スペックルに関する基礎問題では干渉現象の説明に整合性が見られ、腹部横断像の部位同定ではラベリングの誤りを指摘できる場面も確認されたが、最終判断の一貫性という点では改善の余地がある。

技術基盤の整備については、医療データに固有のプライバシー要件を踏まえ、クラウド型LLMの利便性とリスクを比較検討しながら、院内ローカル環境での推論実行を重視した。量子化や蒸留、プルーニングといった軽量化技術を適用し、オンプレミスでのスタンドアロン運用に耐えるモデル環境を構築したほか、高速推論フレームワークの検証を通じて、外部送信を伴わない評価体制を整えた。モデル選定にあたっては、外部の医療LLMリーダーボード等の客観指標を参照しつつ、タスク特性に応じた更新方針を定期的に見直した。これらの運用は、監査ログの取得、プロンプトと出力の保存、再現性の確保など、ガバナンス要件と表裏一体で設計されている。

2.人工知能を用いた単純X線写真での仙骨骨折検出の研究

骨盤部単純X線写真(XR)上で仙骨骨折を正確に検出できるAIを開発し、その精度を整形外科専門医のものと比較することを目的とした。本研究は、整形外科稲垣直哉先生との共同研究で、本研究部ではAIアルゴリズムの作成とその評価を分担している。対象は骨盤骨折が疑われる患者で、XRとCTスキャンが撮影されているものである。X線写真はCTの結果をもとに仙骨骨折の状態に応じてラベル付けされた.データセットはトレーニングセット(2038画像)とテストセット(200画像)に分けられた。トレーニングセットを用いて8つの畳み込みニューラルネットワーク(CNN)モデルを学習させた.学習後のモデルは識別能力を評価するために用いられた.また,同じテストセットを用いて,経験豊富な整形外科医4名による検出能力も測定した.整形外科医による骨折の評価結果を、曲線下面積の値が上位3つのCNNの結果と比較した。その結果 8つの学習済みモデルにおいて、曲線下面積が最も高かったのは、Inception V3(0.989)、Xception(0.987)、Inception ResNetV2(0.984)であった。また、これら3つのCNNでは、整形外科医よりも検出率が有意に高かった。
結論 整形外科医と比較して,AIは仙骨骨折をよりよく検出できる可能性がある.AIを用いることで、仙骨骨折をよりよく検出することができ、整形外科における確率的タスクの処理と伝達を強化できる可能性がある。本研究は、現在製品化のために学習データ、テストデータを増やし、さらなる高性能のモデルの選定を進めている。

3.画像診断におけるAI活用推進のための教育・啓蒙活動

各種の医学会(業績参照)において、各学会の会員に近未来の画像診断支援へのAI活用の将来性やその原理について解説する教育・啓蒙活動を行った。

4. 超音波とマイクロバブルの併用による、急性期の重要血管閉塞の快速再開通法に関するin vitro研究

急性期脳梗塞の治療において、閉塞血管の早期再開通が最も根本的な治療法である。経頭蓋超音波、およびそれとマイクロバブルの併用が組換え組織型プラスミノーゲンアクチベーター(rt-PA)の血栓溶解を促進できることは既に証明されている。しかし、完全閉塞した血管に対して臨床での血栓溶解治療の失敗例が頻発し、その原因は血流が完全に止まった血管の中に、rt-PAが血栓部位に到達しにくいことに由来すると考えられる。我々は超音波とマイクロバブルの併用がrt-PA の血栓溶解に対する局所的な促進作用以外に、rt-PAを長距離運搬する作用もありうることを理論的に検討した。本研究では、in vitro実験を通じて、この運搬作用の実在性、大きさ、およびそれと超音波の各種パラメータとの関係について研究を進めている。又、新しいマイクロバブルの開発についても研究を進めている。

5.超音波による血管再閉塞予防法の研究

脳血管塞栓症発症後の超急性期のrt-PA静注による血管再開通治療後には、血管の再閉塞がしばしば発症する。rt-PA治療後24時間以内に抗凝固療法が禁止されるため、血管の再閉塞も致命的な難題である。我々は桐蔭横浜大学医用工学部生命医工学科澤口先生と共に、インビトロの血餅成長モデルにおける非侵襲超音波の血栓成長制御効果について研究を進めている。この研究では、非侵襲的な超音波照射が血栓の成長を制御できること及びその特徴を示してきた。安全かつ単純な超音波照射は、超急性期脳梗塞に対するrt-PA 治療後の再閉塞を防止するために使用することが可能であると考えられ、さらなる臨床応用に向けて基礎的研究を進めている。

6. 超音波によるがん造影及び治療法の研究

固型がんに対する選択的超音波造影法を実現するため、EPR(増強されたがん間質への透過及び保持)効果を利用して、多種多様なナノサイズの相変化液滴(PCD)を用いたin vitro及び動物実験が行われてきた。しかし、臨床応用が安全かつ有効な方法は未だに見つけられていない。我々は、がんの血流及び血管網が特殊で、PCDの相変化で生じたマイクロバブル(MB)を長く保持する作用(EVR効果)があるという新しい原理を提言し、新しい選択的超音波造影法を開発している。


所在地 東京慈恵会医科大学 人工知能医学研究部
〒105-8461
住所 東京都港区西新橋3-25-8 F棟2階
電話 03-3433-1111